過ぎ去りしdays
散歩・本・映画・おやつ

プロフィール

koburii

Author:koburii
HN:こぶり
国内外問わず、夫の仕事の関係で引越しばかりしている40代の主婦。



カテゴリ



月別アーカイブ



和書「シズコさん」母と娘



主に洋書のレビューだけでしたが、これから和書の感想も、気が向いた時に書いていきます。


タイトル:シズコさん

作者:佐野洋子




親子の愛とは何なのだろう?そんなことを考えさせられた小説です。

絵本作家の佐野洋子さんが、自分の母親との関係を書いたノン・フィクション。タイトルのシズコさんとは、佐野さんのお母さんのお名前です。

「母親をずっと嫌いだった」、「触るのも嫌」で、「母親を金で捨てた」。そして自責と罪悪感で苦しむ娘、佐野さん。

小さい頃、虐待され、一度も優しい言葉をかけてもらったことがない。ごめんねも、ありがとうも、決して言わない母。それでも7人の子供を産み、3人の子供を失い、42歳で未亡人となり、主婦から一転して公務員となり、終戦の中で残った4人の子供全員を次つぎと大学へと入れた強い母。

絶対的に「合わない」母と娘。母は77歳の年に、弟嫁から自分の家を追い出され、行き場を無くし、佐野さんの家に身を寄せます。母に対して冷たく当たってしまう自分。妹たちからの非難。限界を感じ、佐野さんは、全財産、自分の老後費用も当て込んで、高級老人ホームに母親を「捨てる」。

そしてホームで呆けた母は、菩薩となった。

呆けた母親の前で、初めて佐野さんは娘となれた。

私は老人ホームのベッドの中で、自然に母さんのふとんをたたいていた。
 「ねんねんよう、おころりよ、母さんはいい子だ、ねんねしな」母さんは笑った。とっても楽しそうに笑った。
 そして母さんも、私のふとんをたたきながら「坊やはいい子だ、ねんねしなー。それからなんだっけ?」
 「坊やのお守りはどこへ行った?」
 「あの山超えて、里超えて」と歌いながら私は、母さんの白い髪の頭をなでていた。
 そして私はどっと涙が湧きだした。自分でも予期していなかった。
 そして思ってもいない言葉が出て来た。
 「ごめんね、母さん、ごめんね」
 号泣と云ってもよかった。
 「私悪い子だったね、ごめんね」
 母さんは正気に戻ったのだろうか。
 「私の方こそごめんなさい。あんたが悪いんじゃないのよ」
 私の中で、何かが爆発した。「母さん、呆けてくれて、ありがとう。神様、母さんを呆けさせてくれてありがとう」
(「シズコさん」佐野洋子 211~212ページ)

 
冒頭でも書きましたが、母親の愛って何でしょう。

昨今流行っている、仲良く旅行や買い物にと、ベッタリな「一卵性母娘」(私もどちらかと言えばこの部類です)。しかし一方で、「お母さん大好き!」なのに、自分自身のことは愛せない娘たち。依存症、無気力症、拒食症、そして自分が子供を産むことへの抵抗、母親とのデートをキャンセル出来ない何か。

これってつまり、母親は、母親のことを愛するようにだけ教え、娘が自分で自分を愛するようには教えなかったのかも知れません。

佐野さんのお母さんはこの真逆にいます。冷たく、容赦なく、無慈悲で、ちっとも優しくなんかない。子供に「大嫌い」とか、「なんなのあの人は」と言われる子育て。けれど娘の佐野さんに、責任感と、自分の人生を愛し、全うする自信を与え、どうであれ、親を捨てる強さを与えた。

大嫌い、大嫌いと言い続けるこの母娘の愛に、私は涙を止めることが出来ませんでした。母親との関係で、葛藤を持たない娘はいないでしょう。

佐野さんの一番有名な作品は「100万回生きたねこ」です。ご存知の方も多いと思いますが、王様の猫、サーカス団の猫、優しいおばあさんの猫と、猫は100万回死んで、100万回生まれ変わります。猫はどの飼い主も大嫌いです。

そしてある時、野良猫に生まれ、自分が自分の飼い主となり、愛する猫に出会い、そして別れの苦しみを知り、二度と生まれ変わらないというお話です。誰の飼い猫でもなくなって初めて、人生が意味を持つわけです。


佐野洋子さん。1938年北京生まれ。2010年11月。乳がんで死去。詩人、作家の谷川俊太郎さんは元夫。
関連記事


トラックバック

トラックバック URL
http://koburiland.blog104.fc2.com/tb.php/432-960ea114
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)