和書「坊ちゃん」夏目漱石


坊ちゃん


夏目漱石


1906年




赤シャツはホホホホと笑った。別段おれは笑われるような事を云った覚えはない。今日ただ今に至るまでこれでいいと堅く信じている。

考えてみると世間の大部分の人はわるくなる事を奨励しているように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。

それじゃ小学校や中学校で嘘をつくな、正直にしろと倫理の先生が教えない方がいい。いっそ思い切って学校で嘘をつく法とか、人を信じない術とか、人を乗せる策を教授する方が、世のためにも当人のためにもなるだろう。(坊ちゃん)


ブックオフで売られていたので、久しぶりに夏目漱石の「坊ちゃん」を読み返しました。漱石は単純にその面白さと、リズムの良さで、私も日本の好きな作家の3本指に入りますが、さすがにこちらの本は中学の課題図書で読んだ以来でしょうか。

夏目漱石はその全ての作品が、中・高校生の課題図書でいまだに人気があるそうです。文章は簡単で・読みやすく・分かりやすい。そして何よりも現代小説のような楽しさがあり、何拍子も揃った本です。「坊ちゃん」の他に、「我が輩は猫である」「草枕」「こころ」「三四郎」「それから」などは、ほとんどの方が中学校で読まされたとは思いますが、大人になって読み返すのもまた面白いと思います。日本を代表する国民的作家ですし。

漱石の面白さは、その社会風刺にもあります。坊ちゃんは、田舎の嫌らしい人間達のその様や、みみっちい性質を痛烈に批判していています。けれどなんというか、それって日本人なら誰でも持っているような嫌らしさであって、決して悪としては捉えていないし、そもそも悪ではないですよね。

ただこの「嫌らしさ」がかえって厄介で、それをユーモアを持って攻撃するから面白い。
日本の、日本人社会の、近代人の嫌らしさを、漱石ほど的確に、そして面白く捉えた作家は少ないでしょう。社会風刺で言えば、私は特に「草枕」のこの文章が好きです。観察眼が素晴らしい。


世の中はしつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、いやな奴で埋って いる・・・・・・五年も十年も人の臀に探偵をつけて、人のひる屁の勘定をして、それが人世だ と思ってる。そうして人の前へ出て来て、御前は屁をいくつ、ひった、いくつ、ひったと 頼みもせぬ事を教える。前へ出て云うなら、それも参考にして、やらんでもないが、後ろ の方から、御前は屁をいくつ、ひった、いくつ、ひったと云う。うるさいと云えばなおな お云う。よせと云えばますます云う。分ったと云っても、屁をいくつ、ひった、ひったと 云う。そうしてそれが処世の方針だと云う。(草枕)


本当おかしいですよね。細かい揚げ足取りや粘着質の国民性を、屁を数える行為に例えて、まさにという感じです。でも笑えるのは、自分の中にもしっかりその嫌らしい部分があるからで。このシニカルな笑いがまさに漱石で、またこのシニカルな笑いがまさに近代という感じがします(なんのこっちゃ)。

さて「坊ちゃん」ですが、物理学校を卒業し、四国の中学校に赴任した坊ちゃん。江戸っ子気質で、卑怯者と曲がったことが大嫌いな彼が、田舎教師の赤シャツ、うりなり、山嵐、野だいこらとともに繰り広げる人情劇。坊ちゃんのまっすぐな性格が読みどころですが、坊ちゃんを唯一可愛がってくれた下女の清ばあさんとの関係も、意外と核ですね。二人のベタベタはしないけど、強い絆がたまらなく良い。

夏の課題図書の時期はすっかり過ぎてしまいましたが、one sittingで読める短い小説。秋の公園ベンチ読書にいかがでしょうか。

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