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和書 「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子

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猫を抱いて象と泳ぐ

小川洋子


「慌てるな、坊や」男は言った。

それは以降、男が少年に向かって幾度となく繰り返すことになる台詞だった。慌てるな、坊や。その言葉と声のトーンは、生涯を通して少年の警句となり灯台となり支柱となる運命にあった。


時々読んでて涙が滲んでくるのですが、一体自分が何に涙しているのかさえよくわからない。

一番感動したのは、みんな誰かに対して全力で心配しているんだけど、何かアドバイスするとか、手助けするとかじゃなく、本当ひたすら心配するだけ、見守るだけってところ。こういう優しさって実は一番難しい。普段私も、心配という名の元、押し付けがましくあれこれ口を挟んでいるような気がする。

幸せや価値観なんて人それぞれ。
よく言われる台詞ではありますが、言葉だけでは何の意味も持たないですよね。
小川洋子さんの本には、そんな台詞は出て来ないけれど、読んだ後自然にそう思えるのがすごい。本来小説の意義もそれなんだろうなあ。前回読んだ「博士の愛した数式」も良かったけれど、個人的には今回の小説の方が好きかも。

唇に産毛の生えた主人公の少年は、親を亡くし、弟と一緒に祖父母の元で育てられる。ある時、ひょんなことから訪れたバス会社の独身寮で、雑用係をしているマスターに出会う。マスターはとても太っていて、廃車となったバスで生活していて、そしてチェスの名人だった。最強ではなく最善の、相手を打ち負かすためではなく、チェスの素晴らしさを分かち合うためにプレイする。それがマスターのチェスのやり方だった。この出会いの日から少年は、生涯を通して広く美しいチェスの世界を旅することになる。

チェスなんて私もルールも何もわかりませんが、それと関係なく楽しめます。何かを極める、一流と呼ばれる人たちはみな、それがチェスでも、音楽でも、野球でも、料理でも、サーフィンでも、小説を書くのでも、たぶん同じなのでしょう。

それにしても、登場人物たちももちろんなんだけど、この本に出て来る猫も、象も、人形も、鳩も、鈴までも、みな遠慮深く、図々しさが欠片もない。
狭いチェス盤の下でしかチェスが指せない少年、同じくチェス盤の下の猫、動かない回送バスの中で窮屈に暮らすマスター、壁の隙間に挟まったままのミイラ、屋上から降りられなくなった象、リアルミイラの肩から一歩も動かない鳩。登場人物たちは、みな自分に与えられたごくごく狭い場所で、文句も言わず生きています。

個人的には何かを求める、欲しがることが悪いことだとは私は思わないけれど、こういう不満を持たない生き方というのは、実は素晴らしいと同時に賢いのだろうなあと思います。そして本来日本人はみな、この謙虚さと賢さを持った民族なのだろうな、と。

ところで私、なぜかこのタイトル、「象を抱いて猫と泳ぐ」と記憶していました。象を抱くってあなた・・・。

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コメント

こぶりさん。
こんにちは。小川洋子さんのお名前は、初めてで、今、こちらのこぶりさんのブログを読んで、うー、日本帰国中に知っていたら、絶対、本屋さんで探していたのに、と、思いました。私も、こちらの本、読んでみたいです。
こぶりさんは、日本の作家の方も、たくさんご存知のようですけど、どうやって、新しい日本の作家の方の本とかを、探されるのですか?
マンハッタンには、紀伊国屋さんとかも、あるのかしら??
[2012/06/06 23:35] URL | 洋書Bookworm #- [ 編集 ]


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