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Book No.145
Title: The Moon and Sixpence
Author: William Somerset Maugham
Publication date: 1919

モームは読みやすいし、エンターテイメント性も高くてかなり好きなのですが、こちらは特にストーリーテラーのモームならではの一冊!って感じです。私が本の次に愛する絵の世界を描いているところもポイント高い理由。
ナレーターは駆け出し小説家の青年で、彼の目から見たStricklandという美に取り憑かれた中年男の半生が描かれています。

"And the passion that held Strickland was a passion to create beauty. It gave him no peace. It urged him hither and thither. He was eternally a pilgrim, haunted by a divine nostalgia, and the demon within him was ruthless. There are men whose desire for truth is so great that to attain it they will shatter the very foundation of their world. Of such was Strickland, only beauty with him took the place of truth. I could only feel for him a profound compassion."


Stricklandは、ブローカーとして成功した40絡みの中年男ですが、ある日突然絵を描きたいからと、妻を捨て、育ち盛りの子供達も捨て、仕事を投げ出し、パリに行き、そこで浮浪者のような生活を送りながら絵を描きはじめます。
飢えと病気で死にかかったところを、人のいい、世話焼きの友人に助けられますが、その友人の奥さんを寝取り、最悪の結末で関係を終わらせ、タヒチに逃れ、村の娘の世話になりながら絵を描き続け、ハンセン病になり、死に際に最高の傑作を描きますが、自分の死とともに燃やしてしまいます

普通の感覚だと「だからちみは何がしたいんだよお…」な話だと思うんですけどね。それが天才と一般人の差でしょうか。今だとミッドライフクライシスで片付けられてしまうかもしれません。それにしても凄まじい人生です。ある種の宗教、殉教者の域ですよね。事実Stricklandは、美の信仰者であり、美のエヴァンゲリストです。神が伝道者には厳しいように、Stricklandにとって美とは、決して心地よいものでも愛でるものでもなく、むしろ畏れるものであり、全てを投げうってひれ伏すものなのです。

Stricklandの、世俗を徹底的に無視した態度、美と芸術のために全てを捧げる生き方が、口あんぐりだけど読んでて気持ちいいです。創造する真の喜びを知る、ゼロから有を生み出す世界の住人になることは険しい道ではあるけれど素晴らしいでしょう。そこでは世間の評価はどうでもいいし、嫉妬も羨望もランクもない。人の意見や世間体ばかりを気にする社会、勝ち組や負け組の発想、足の引っ張り合いが生まれるのも、既存の物や立場を奪い合うしかない非クリエイティブな人間の集まりだからとも言えますから。

ところでこちらは、画家ゴーギャンをモデルにしてるとも言われます。行動そのもの(40近くなって仕事を辞め画家を目指しそこから大成した天才肌、絵も売れず貧困で苦しむ、タヒチの絵など)はまあそうなんですが、Stricklandはロンドナーの設定だし、また性格や発言などは、ゴーギャンというよりは、いろんな芸術家(特に印象派)が寄せ集まってできあがったキャラクターという感じです。ゴーギャンも、Stricklandほど割り切って迷いなく芸術に打ち込めていたら良かったのにと思います。

またタイトルのMoon(月)とSixpence(六ペンス)は、天才/芸術/ルナティックを表す月と、凡人/生活/現実を表す六ペンスで対象的に用いています。そしてStricklandの3人の女性達ですが、ロンドンのスノッブな正妻は、Stricklandのバカさ加減に愛想を尽かし、パリの不倫妻は、芸術家Stricklandに抵抗するも魅力に逆らえず身を滅ぼし、タヒチの大地の少女は始めから最後まであるがままのStricklandを包容するという、分かりやす過ぎるコントラスト。モームがストーリーテラーと呼ばれる所以でしょうか。でもねえ、ロンドンの奥さんの気持ちも私はよくわかりますよ。就学中の子供3人も4人も抱え、大都会で生きるって本当に大変ですもの

それはそうと、読み終わるとゴーギャンの絵が見たくなり、METに行ってきました。数点あるMETのゴーギャンコレクションは、ゴッホと同じ部屋、セザンヌの間の隣に置かれております。

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私が好きな絵は2点あって、まずこの果物の静物画。
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モームの小説の中にも、ゴーギャンの静物画らしきものを描写するシーンがありますが、こちらの絵を思い出しました

そしてもう一つ。
ゴーギャンの中でも傑作の一つとされている、二人のタヒチアン女性の絵。

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この二人のタヒチアン女性の絵なんですがね。。かなり色っぽいんです。実際本物を間近で見ていると、私でもムラムラしてきます(笑)。

無垢にもあらわになった娘たちの胸にはまだ幼さが残りますが、寄り添うように描かれた熟したマンゴーとピンクの花の効果で妙になまめかしい印象を与えます。また興味深いのは、若さの漂う胸とは対象的なこの娘たちの表情で、無垢とは言えず、女の知恵を知った顔です。まさに崇めていいのか、畏れていいのか判断に迷うところです。ところでこちらの絵、数年前、精神の病んだ女性が、この絵を破壊しようとした有名な話があります。少なくともどうであれ、彼女にはゴーギャン(Strickland)の畏れが伝わったのかも?しれませんね。



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