和書「掏摸」

明けましておめでとうございます。

今年も去年同様、31日と元日はお料理上手な知り合い宅にお邪魔し、ズボラ主婦を満喫していました。そしてこれまた去年同様、今年の読み始めは日本の小説で。

ウォール・ストリート・ジャーナルの2012年のベスト10ブック、フィクション部門で選ばれていたので(WSJ-the-best-fiction-2012)、興味を持って中村文則氏の「掏摸」読みました。日本では若いながらに既に地位を確立した中村氏ですが、アメリカでは彼の翻訳本が今年初めて出ました。

私が読んだのは日本語のオリジナルの方です。

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タイトル:掏摸(スリ)
作者:中村文則
出版日:2009年10月

僕は、自分が死ぬことについて思い、これまでの自分が何だったのかを、考えた。僕は指を伸ばしながら、あらゆるものに背を向け、集団を拒否し、健全さと明るさを拒否した。自分の周囲を壁で囲いながら、人生で生じる暗がりの隙間に、入り込むように生きた。しかし、僕はなぜか、それでもしばらくはここにいたいと思っていた。~掏摸~

主人公は掏摸(スリ)を生業として生きるアウトサイダーな青年で、裏社会で生きているうちに、まずい人に目をつけられ、窮地に立ちます。

主人公は、悪人ではないです。掏摸(盗み)という職業は世界で2番目に古い職業(一番目は売春)だそうです。主人公の掏摸仲間の一人は、こう言います。

「でも所有という概念がなければ、盗みの概念がないのは当たり前だろう?世界にたった一人でも飢えた子供がいたとしたら、全ての所有は悪だ」~掏摸~

誰かが盗む前に、誰かが所有を始めたのです。誰かが「必要以上に」所有を始めたのです。
この世は不平等で、犯罪に走る人たちは、善悪を抜きに言えば、多かれ少なかれこの「不平等さ」の「異常さ」に気がついているのです。

さてこの掏摸仲間が、これまた独特の哲学を持つ裏社会の大物、木崎に目を付けられてからどんどん深みにはまっていきます。

「こうなればああなり、ああなればそうなる。全てはパズルだ。あれで得た俺たちの利益は、お前らに渡した報酬なんて紙屑に思えるものだよ。利益だけじゃない、力もだ。そしてあれは単なるサイドビジネスで、俺にとってはたいしたことですらない。」~掏摸~

また木崎は、「悪に染まりたいなら、善を絶対忘れないことだ」といい、「悶え苦しむ女を、喜んで拷問するのはつまらない。可哀想だと涙を流し、彼女の運命を想い、同情に震えながら、さらなる拷問を加えること」こそ至福だと言う。そしてそれこそが神がしていることだと。

主人公も、主人公の掏摸仲間も、裏社会で生きるしかないけれど、チンピラやヤクザな世界には入るつもりはない。彼らは、自分たちの行動が褒めらることではないことはちゃんと知っているが、アウトサイダーになりたかったわけではなく、あくまで社会から「外れてしまった」、今時どこにでもいるような青年たちです。そして外れてしまった青年たちは、実は世界の不平等さを誰よりも知っているのです。人に頼ることさえ受け入れれば、病院にでも行き、適応障害者として社会保障でも受けられるかもしれない。けれど、不平等さに負けて弱者になることもない。だから主人公は、母親に万引きを強要され、義父から暴力を受けている少年に、「見返せ」と言うのだ。祖父母からたっぷりお小遣いをもらうような子供を、父親とキャッチボールするような子供を、憎むのではなく、「見返せ」と。

掏摸の描写がかなりリアルです。ドキドキ緊張し、掏摸の場面では何度も手に汗握りました。テクニック論で、ああなるほどと勉強になることも多い。私も人生で一度だけ掏摸にあったことがあります。社会人になってすぐ、最初のお給料で買った真新しい鞄に入った真新しいお財布を掏られた。鞄の奥に入れていたし、なんでよりによって、、と当時は思ったけど、偶然ではないのね。

アンチヒーロー。なんとなく先日観た、ライアン・ゴズリングの「ドライブ」を思い出した。
虚無的な世界と、無価値な人生と、孤独な日々の中で、自分だけのルールで生きることを選んだ、プロの掏摸師のお話です。

ちなみにアメリカ版はこちら。
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Title: The Thief
Author: Fuminori Nakamura
publication date: March, 2012
Pages: 304 pages

ジャケは断然アメリカ版の方が格好いいと私は思うのですがどうでしょう。

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